2023年11月よりPwCコンサルティング合同会社と実施している共同研究における予備調査の結果が公開されました。詳細はこちら(PwCコンサルティング様サイト)にてご確認ください。

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー以下プレス記載よりー*ー*ー*ー*ー*ー*ー

PwCコンサルティングと広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター、映像コンテンツ視聴時における感情惹起と余韻形成メカニズム解明に向けた共同研究の予備調査結果が判明

~「余韻」が残る映像体験には「感情惹起」が重要、特に「内受容感覚*1」の存在に注目~

2024年3月28日
PwCコンサルティング合同会社
国立大学法人広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター

PwCコンサルティング合同会社(東京都千代田区、代表執行役CEO:大竹 伸明、以下「PwCコンサルティング」)と、国立大学法人広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター(広島県広島市、センター長:山脇 成人、以下「BMKセンター」)は、2023年11月に開始した「コンテンツ視聴時における情動変容と余韻形成メカニズムの解明と定量化系構築」に関する共同研究(以下「本研究」)の予備調査の成果として、映像体験を通じた視聴者の「感情惹起」や事後の「余韻」の形成に複数の因子が関連しているとの示唆を得たことを発表しました。例えば、「Z世代」や「婚姻経験」、「子育て経験」の有無など属性や経験の違いによって、同じ映像を視聴した場合でも、感じ方や余韻の残り方に差が生じる可能性があることが分かりました。これらの背景として、内受容感覚*1への影響や個々人の経験、映像視聴前の予測と予測誤差*2などが、視聴時の感情変化や事後の余韻形成に有意な差を生じる因子となり得ることが考えられます。

今回の成果およびBMKセンターの先行研究を踏まえ、今後、本研究に参画するエンタテイメント企業や関連団体を募って実証実験フェーズへと進めることで、エンタテイメント産業にとって重要な作品への評価向上やファンダム形成などクリエイターへの示唆の提供、クリエイティブプロセスの発展を通じたエンタテイメント・メディア業界の健全で持続的な発展に貢献していきます。

本研究の予備調査の概要

目的

映像コンテンツ視聴時におけるポジティブ/ネガティブ反応などの感情惹起および視聴後に生じる余韻効果に関与する因子を定量的に捉え、その発生メカニズムを解明することが本研究の主要テーマです。

今回の予備調査では、ジャンルの異なる映像の視聴を通じた情動変化や直後の作品評価、余韻形成(感情、共感、行動余韻)の間に存在する相関関係を明らかにすることを目的としています。また、同じ映像を視聴した場合で、視聴者の属性以外でも、生体反応の有無、過去の体験やエピソード記憶*3などが感情変化や余韻形成に関与する感性に関わる因子として存在することを初期仮説として構築し、調査設計に組み込んでいます。

調査概要

  • 調査方法:個人特性や属性に関する質問への回答後、ジャンルの異なる2分程度の視聴覚映像4作品(コメディ・ヒューマンドラマ・ミステリー・社会風刺)が提示され、それぞれのコンテンツ視聴後に各設問項目に主観回答してもらう質問紙調査
  • 調査期間:2024年2月14日~3月1日
  • 有効サンプル数:188名*4

主な調査結果

1.視聴した映像ジャンルにより、生じた感情変化のタイプと度合い、および余韻(感情余韻、共感余韻、行動余韻)に違いがある

4ジャンルの内、最も余韻効果が強く表れた映像ジャンルはヒューマンドラマの「子供の成長ストーリー」を描いた作品でした。また、各映像作品において、回答者の性別、年代による感情の惹起(ワクワク、くよくよ、ほっとする、悲しくなるの4因子とその強さ)には有意差は見受けられませんでした。

2.特に「子供の成長ストーリー」映像において、「Z世代」特有の予測誤差が生じたといえる。また、「婚姻経験」「子育て経験」有無によっても感情変化の度合い、余韻効果に違いがある

Z世代の回答者は他世代と比較し、事前のコンテンツへのイメージと視聴後のイメージとの乖離度合い(予測誤差)に有意差が見受けられました(*p = .022)。
「婚姻経験」の有無では、予測誤差(*p = .007)に加えて「共感余韻」(*p = .005)にも有意差が見受けられました。さらに、「子育て経験」の有無において、「共感余韻」 (*p < .001)および予測誤差(*p = .012)に加えて「感情余韻」(*p = .015)にも有意差が見受けられました。

3.視聴時に内受容感覚(生体反応を生じた)を感じた回答者の余韻効果が高い

昔から「涙が溢れる」「胸がドキドキする」「手に汗を握る」「背筋が凍る」など知覚可能な身体反応と感情変化には密接な関係があると論じられていますが、本調査においても、映像視聴時に身体反応を感じた回答者は感じなかった回答者と比べて、特に感情的な余韻は4ジャンル全てで有意に高いことが確認されました(Mann-Whitney U:全てp* ≤ .001)。
*比較項目数に応じた多重比較補正後P値

以上の結果から、「内受容感覚」と感情余韻との関係および、自身の過去体験の想起などによる作品ストーリーに対する期待との差異=「予測誤差」が映像コンテンツにおける感情変化、作品評価、余韻形成などに影響を与えている可能性が示唆されます。

これまでのBMKセンターの先行研究においても、感性における予測誤差の重要性や、内受容感覚の感情惹起への関与が示されており、今後、注目し調査を進めていきます。

広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター 特任教授 センター長 山脇 成人コメント

今回の調査結果は、個人の過去の体験やエピソード記憶と内受容感覚の関連が示唆され非常に興味深い成果といえます。特に「子供の成長ストーリー」映像において、婚姻経験や子育て経験が共感余韻や感情余韻に影響するという結果は注目に値します。今後、社会の中核となるZ世代の価値観の個人差や多様化について、内受容感覚の予測と予測誤差の観点からより掘り下げて映像コンテンツの感情惹起や余韻形成についてPwCコンサルティングと共同研究する予定です。この共同研究により、日本のエンタテイメント作品力を高め、感性の豊かな作品を提供することでウェルビーイング向上に貢献できればと考えています。

今後の実証フェーズに向けて

今後、BMKセンターがリードする感性工学*5と脳科学を融合した「感性脳科学」の観点から脳情報と各種生体情報を統合的に計測・解析するオリジナル実証実験フェーズへ移行します。

実証実験フェーズの開始に向けて、本研究にパートナーとして参画いただけるエンタテイメント関連企業や業界団体を募ります。魅力的な作品制作に利活用可能な示唆をスピーディーに導くとともに、広島から研究成果の社会実装を目指すことで、日本のエンタテイメント・メディア業界のさらなる発展に貢献していきます。

*1 内受容感覚:「お腹が空いた」「心臓の鼓動が早い」など身体内部の感覚

*2 予測誤差:五感などの外受容感覚と内受容感覚によるギャップにより生ずる予測差

*3 エピソード記憶:個人的な出来事や経験を記憶したり思い出したりする場合の記憶

*4 PwC Japanグループの従業員

*5 感性工学:広島大学名誉教授の長町三生氏が提唱した学問で、人の感性を商品設計に活用する技術分野

本研究への参画に関するお問い合わせ先

こちらのフォーム(https://forms.jp.pwc.com/public/application/add/4747)よりお問い合わせください。

関連情報

PwCコンサルティングと広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター、コンテンツ視聴時における情動変容メカニズムの解明に関する共同研究を開始
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/entertainment-eeg231031.html

以上